ニュートンによる運動の第3法則がすべての作用に当てはまるなら、向きが反対かつ同じ大きさの反作用が必ず発生するはずであり、今年のFuji Rockフェスティバルはまさにこの法則を証明するものだった。昨年のような素晴らしい天候への期待とは裏腹に、初日の夜、My Bloody Valentineの重厚な音が丘の中腹に鳴り響き始めるとほぼ同時に、状況は突然変化し始めた。昨年の天気の代償として、今年のFuji Rockでは大量の雨が3日間降り続いたのだった。しかし、ゴアテックスを身にまとうフェスティバル参加者にとって、そんな悪天候も新品で高級なレインコートを試す単なる言い訳にしかならない。それに、フェス中には記憶に残る輝かしい瞬間がいくつかあった。ここでは毎年恒例の、Tokyo Indieによる今年のFuji Rockフェスのトップ3とワースト3のパフォーマンスを紹介しよう。
Winners:
Death Grips – その場に居たほとんどの人が、彼らのライブを絶賛していた。今回のフェスで、そんな場面はなかなか見られなかった。ライブのセットは「シンプルであるほど効果が高い」ということを証明するようなパフォーマンスであり、白色光が高速に瞬く背景を背にしたMC Rideの肥大化したシルエットは、威圧的な迫力があった。ドラマーのZach Hillも、身体から湯気がでてくるまでひっきりなしに激しくドラムを叩き続けていた。まさに脅威。
Savages – 過大評価される者は久しからず。しかし、ロンドン出身のこの女性4人組ポスト・パンクバンドに、この言葉は当てはまらない。アルバムには少し期待を裏切られたが、彼女達がなぜこれほど話題を呼んでいるのか、ライブを観て納得できた。今回のセットの見所は、’No Face’で見せつけた実力と、刺激的な’She Will’ であったに違いない。その中でも一番印象的だったのが、’She Will’ の歌詞の一節“She will kiss like a man” をJehnny Bethが歌っていると、筆者の後ろにいた50歳のフランス人男性が ‘Ooooooh really?’ とKenneth Williamsのように女性らしい奇声を上げた瞬間だった。
Nine Inch Nails – 彼らのライブは観る予定ではなかったが、 Tame Impalaのパフォーマンスにあまり魅力を感じられなかったので、立ち上がって、嵐が荒れ狂う外に出て、Trent Reznor率いるこのバンドがなぜ初日のヘッドライナーであるのかを確かめなければならないとふと思いついた。ステージ演出は始まりから素晴らしく、世界で初披露となる新曲Copy of Aの演奏時には、照明チームがノンストップに動く影を映し出していた。注目バンドのBaianaSystemを観るために途中で会場を抜けたものの、今回のフェスティバルの中では印象に残るパフォーマンスのひとつであった。
Losers:
Boys Noize – 音楽は最高。だが、ステージ上のターミネーターのような巨大な頭蓋骨は見るに耐えなかった。DJのライブパフォーマンスがかつてのように嘲られないこの時代、安っぽい小道具に頼る必要はまったくない。点滅する目と、ライトに照らされる歯を見て、Boys NozeことAlex Ridhaに対する筆者のほのかな尊敬の念は消え失せた。ひとつだけ感心したのは、あの巨大な怪物を海を越えて連れて来たということだ。
The Cure – 今でも筆者は皆と同じようにThe Cureが好きである。今まで一度も観たことがなかったので、The XXを断念してまで2時間半のライブをフルで観ようと張り切っていた。しかし、どんな熱烈なファンでもあのセットは長過ぎると感じただろう。もちろん盛り上がりは何度か頂点に達したが、最終日の日曜日にびしょぬれになった観客の感性を目覚めさせるほどの活気がパフォーマンスになかったのが残念だ。
Toro Y Moi – 素敵な名を持つChazwick Bradley Bundick率いるこのバンドは、残念ながらセカンドアルバムの良さを十分に発揮することができなかった。もし彼らが太陽輝く昨年のFuji Rockで遅めの午後に登場していたら、このレビューに書くことも随分違ったかもしれない。しかし、最悪の豪雨に加え、彼らの前に登場したSavagesの陰鬱なパフォーマンスのインパクトもあって、明るいチルウェーブ・シンセポップはハードルが高すぎた。演奏中にChazwickが何度かミスをしたという事実も(そのうち一度は観客に謝っていた)状況改善には役立たなかった。
執筆:Mark Birtles
翻訳:永田 衣緒菜